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「……何で着いて来るのよ」
ドーンスターからホワイトランへ向かう道の途中、眉間に皺を寄せた黒髪のノルドの女がぽつりと呟く
「俺もそっちに用事があるんだよ」
彼女の後ろを歩いている薄茶色の髪をしたインペリアルの男が、眉を僅かに上げ答える
「馬車でも使えば良いでしょ?」
一つ溜息を吐き、女が冷たく言葉を投げ返した
「歩きたい気分なんだよ。天気も良いしな」
そう言って男は、青空を見上げ背伸びをする

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「……勝手にして。私は別の道を通るから」
くるりと方向を変えて、石畳から外れた草むらへと女は踏み出す
「きゃっ!!」
直後、絡まった草に足を取られ体勢を崩した女から、鈴の様な声が鳴った
「おいおい、ちゃんと足元見て歩かねぇから……」
肩を竦めながら男が笑う
「だっ、誰のせいで……っつ!!」
恥ずかしさから頬を赤らめながらも女は怒るが、突如足に走る痛みに思わず顔を顰める
「ほら、立てるか?」
歩み寄り手を差し出した男の顔を女はきっと睨み、その手を払い除けた
「何ともないから、もうほおっておいて」
男は目を細めて、払われたその手を女の足へと伸ばす

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「やれやれ……いい加減ちっとは素直になったらどうだ?」
「やっ……そこは触れちゃ駄っ……!!」
足首を軽く握ると、女の口から何とも情けない声が漏れ出した
「おーおー、また可愛い声出しちまって」
「うっ…うるさ……」
ニヤニヤと男が笑うと、女は顔を耳まで赤く染めながら口をパクパクとさせる
「さっきので捻ったんだろ?おぶってやるから来いよ」
向けられた男の広い背中を、女は今にも泣き出しそうな表情をしながら見つめた
そして観念したかの様に、そっとその首へと腕をまわす
「……煙草臭い」
鼻先に触れた髪の匂いに不思議と心地良さを感じながらも、女がいつもの悪態を吐く
「へいへい、本当に手のかかる子猫ちゃんだな」
そんないつもと変わらぬやり取りに、少し嬉しそうな表情をひとつ、男が浮かべた

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「あと加齢臭がする……」
「お前……後で覚えとけよ?」



甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし

SHORT STORY